宅建士

宅地建物取引士とは

宅地建物取引業法(以下、「宅建業法」といいます)31条の3によれば、「業者は、その事務所等ごとに、事務所等の規模、業務内容等を考慮して国土交通省令で定める数(本店・支店は従業員5人に1人以上の割合、案内所等は1人以上)の成年者である専任の宅地建物取引士を置かなければならない」と規定されています。そして、宅建業の業務のうち、次の仕事は宅地建物取引士でなければできないものとされています。

(1) 重要事項の説明(宅建業法35条1項)

(2) 重要事項説明書への記名(同条5項)

(3) 契約内容が記載された宅建業法37条の書面への記名(37条3項)

これらの仕事はいずれも、大変重要な仕事ばかりです。たとえば、重要事項説明書には、その物件の物理的な現況や周辺の環境ばかりでなく、建築基準法や都市計画法などの法律の規定によるさまざまな制限の有無とその内容、また、抵当権や仮登記、地上権などの設定の有無とその内容など、対象物件に設定された権利の制限について、調査をして記載しなければなりません。

このように、宅地建物取引士は、不動産取引において購入者などが安全・確実に取引できるよう、専門家として業務を遂行する重要な責任と使命を負っています。宅地建物取引士になるためには、宅地建物取引士資格試験(以下、「宅建試験」といいます)に合格して、「都道府県知事の登録」を受け、「宅地建物取引士証の交付」を受ける必要があります。

宅地建物取引士資格試験の概要

1)受験資格

年齢・性別・学歴等に関係なく、誰でも受験することができます(ただし未成年者は、試験に合格しても、原則として都道府県知事の登録を受けることができません)。

2)試験のスケジュール

宅建試験は、一般財団法人不動産適正取引推進機構(以下、「機構」といいます)が都道府県の委任を受け、各都道府県を試験地として実施しています。

●実施公告 ー6月の第1金曜日

●受付期間 ー7月1日~

●受験手数料 ー8,200円

●受 験 票 ー令和4年度は9月27日郵送

●試 験 日 ー10月の第3日曜日 午後1時~午後3時(2時間)、全国47都道府県において同一の問題で同時に行われます(インターネット申込みの場合、現住所のある都道府県でしか受験できません)。出題数は50問で、四肢択一式による筆記試験です。

●合格発表 ー11月下旬〜12月初旬、合格者には合格証書が郵送されます。合格者の受験番号、合否の判定基準および試験問題の正解番号は機構のホームページで公表されるほか、都道府県ごとに指定の場所で掲示されます。

試験に関するスケジュールは、機構のホームページや官報等で発表されます。6月になったら機構のホームページなどで確認するようにしてください。

3)受験者数・合格者数・合格率の推移

令和4年度の場合、36問が合格基準点とされていますが、ここ数年の結果をみると、一応35〜38問以上の正解が得られれば、合格することができるといえます。とりあえずは7割正解を絶対目標とし、これに何問上乗せできるかによって合否が決まってきます。

4)試験の内容と出題分布

試験は、宅地建物取引業に関する実用的な知識があるかどうかを判定することに基準を置いた内容で、7分野から出題されます。

1.権利関係
・民 法
・借地借家法
・区分所有法
・不動産登記法

2.法令上の制限
・都市計画法
・建築基準法
・宅地造成等規制法
・土地区画整理法
・農地法
・国土利用計画法

3.宅地・建物の税
・国 税
・地方税

4.宅地・建物の価格の評定
・地価公示法
・不動産の鑑定評価

5.宅建業法
・宅建業法
・住宅瑕疵担保履行法

6.宅地・建物の需給と取引の実務
・住宅金融支援機構法
・不当景品類及び不当表示防止法
・統 計

7.土地・建物の基礎知識
・土 地
・建 物

学習の進め方

試験の内容をみてもわかるように、宅建試験では「権利関係」「法令上の制限」「宅建業法」の3分野からの出題が全体の80%以上を占めており、試験に合格するためには主要3分野の内容をしっかりとマスターしておく必要があります。

受験勉強を進め方

1)出題範囲と傾向を理解する

・基本テキスト(参考書)を一通り通読したら過去問に目を通し、出題傾向に基づいた学習の重点項目を把握します。宅建試験は長い歴史がある試験で、毎年のように出題される問題もあれば、何年かに1回しか出題されないような問題もあり、出題範囲や傾向はある程度予測できます。効率よく合格に必要な知識をマスターするためにも、傾向分析は不可欠です。

・再度、重点項目を中心に基本テキストを読み込みます(その際、ポイントとなる数字や期間は正確に覚えておくようにしましょう)。

・試験では法律が規定する内容を正確に理解していなければならないので、ある程度の知識をマスターしたら、過去問や予想問題にあたってみます。

以上の学習を繰り返しながら知識を確実なものとしていきます。

2)問題文を正確に把握する

試験問題を読むときは、問題文が何を要求しているのかを、正確に把握する必要があります。試験問題では「正しい(誤っている)ものはどれか」「法律に違反していないものはどれか」などと表現がまちまちであるうえ、関連のない条文をつなぎ合わせて受験者を迷わせようとする場合も少なくありません。

問題集にあたってみていくら成績が良くても、まったく同じ問題が出題されることはないので油断は禁物です。

3)百点満点をめざす必要はない

受験勉強の際は、過去の分野ごとの出題数とその範囲を頭に入れ、全体の法令を万遍なく勉強するのではなく、やはり出題頻度の高い法律に重点を置いて勉強し、苦手な法律は流す程度にしておいたほうが効率的です。

百点満点を取らなくても合格できるということです。

4)用語に慣れる

試験問題には、日常あまり使用されることのない法律用語がそのまま使われる場合が多いので、過去問題などでそれらの法律用語に慣れておく必要があります。また、試験問題は長い文章を無理して縮めているので、難解な文章になりがちです。過去問を繰り返し学習し、それらの文章を短時間で読み取って理解し、しかも文中に仕掛けられたワナを見破るための訓練をしておく必要があります。

5)解説文をよく読む

問題集の学習にあたっては、解説文もよく読んでおくようにしましょう。判例など基本テキストに記載されていない事項もあるからです。ただし、解説はあくまでもその試験問題の解説であって、法律を体系立てて解説してあるわけではありません。

6)疑問点は法令等にあたって確認する

合格するためには、法律が規定する内容をきちんと理解していなければならないので、重要な条文は法令や基本テキストで確認しておく必要があります。問題集だけの知識では、やはり断片的なものとなり、十分とはいえません。

7)計画を立てて勉強する

計画を立てて勉強することと、出題数の多い部分に多くの時間をかける等の対策が必要となります。また、通勤の電車の中なども、うまく利用したいものです。

目、耳など五感をうまく利用して学習を計画的にすすめましょう。

各分野の傾向と対策

1)権利関係

もっとも重要な民法

この分野からは14問出題されますが、最も重要なのは10問出題される民法です。意思表示、代理、時効による取得、物権変動の対抗要件、共有、抵当権(根抵当権)、債権の譲渡、契約の解除、契約不適合責任、賃貸借、不法行為、相続等は出題頻度の高い事項です。かならず出題されるものと考え、重点的に学習しておく必要があります。

また、過去問をみてもわかるように、民法は事例がらみの問題が多いので、予想外に時間をとられてしまいがちです。A・B・C・Dという登場人物に振り回されないよう、過去問でしっかりと慣れておきましょう。

そのほか権利関係からは、借地借家法(借地関係1問・借家関係1問)、区分所有法(1問)、不動産登記法(1問)から出題されます。

2)法令上の制限

法令上の制限からの出題は8問で、都市計画法(2問)、建築基準法(2問)、宅地造成等規制法(1問)、土地区画整理法(1問)、農地法(1問)、国土利用計画法(1問)などから出題されます。

この分野では、都市計画法は都市計画や地区計画、開発許可、建築制限などから、建築基準法は建築確認、接道義務、容積率と建ぺい率、建築物の高さ制限、用途地域内の建築物の制限などから出題されています。

出題条文が多いので、過去問の出題内容などをチェックしながら、制限の内容(届出制か許可制か、期間・面積・高さなどの数字)を正確に頭に入れておく必要があります。

受験者にとっては比較的馴染みの薄い法律が多く、数字などの暗記項目も多いため苦手意識をもつ人も少なくありません。しかし、出題箇所はある程度特定されており、民法や宅建業法のような難問は出題されません。勉強しておけば確実に正解できる分野だといえます。

3)宅地・建物の税

この分野では、国税(所得税・贈与税・印紙税・登録免許税などから1問)と地方税(不動産取得税・固定資産税から1問)で合計2問出題されます。税金については、租税特別措置法や地方税法附則などに規定されている特別措置からも出題されますので、本則の規定とあわせて理解しておく必要があります。

4)宅地・建物の価格の評定

この分野は、不動産の鑑定評価か地価公示法から1問出題されます。鑑定評価は難問が出題されることは少ないので、テキストや過去問にあたっておく程度でよいでしょう。また、地価公示法も出題条文は限られていますから、確実に正解したいところです。

5)宅建業法(等)

主要3分野のうちでも最重要の分野です。

ここで正解を稼げないと合格点を確保することは難しくなります。宅建業法・同法施行令・同法施行規則の全般が出題範囲となりますが、全問正解をめざして学習に取り組んでください。

宅建業法は、権利関係や法令上の制限などと比べて出題範囲が狭く、全体に出題傾向を把握しやすい反面、施行令や施行規則の細かい知識を試す問題や、いくつかの条文を絡ませた複合問題、長文の問題が多いので、十分に対策を講じておく必要があります。

試験によく出る重点項目としては、免許、宅地建物取引士、営業保証金、媒介契約、重要事項の説明、37条の契約書面、クーリング・オフなど業者が自ら売主となる場合の制限、報酬の制限、宅地建物取引業保証協会などがあります。

最後に住宅瑕疵担保履行法ですが、毎年の基準日(3月末)において、その基準日の前10年間に業者が自ら売主となって買主に引き渡した新築住宅については、住宅販売瑕疵担保保証金の供託または住宅販売瑕疵担保責任保険の締結などの「資力確保措置」が義務付けられます。

6)宅地・建物の需給と取引の実務

独立行政法人住宅金融支援機構の業務、不動産の表示に関する公正競争規約、不動産に関する統計からそれぞれ1問ずつの合計3問が出題されます。

この分野では、地価公示、住宅着工統計など不動産関連の統計数値が出題されますので、日頃から新聞や雑誌の関連記事をチェックしておく必要があります。

7)土地・建物の基礎知識

この分野では、土地1問、建物1問の合計2問が出題されます。土地からの出題内容は、地盤、地形などの特性と住宅地としての適否など、建物については、建築物の構造や材料に関することなど建築基準法施行令からの出題が中心になっています。土地・建物の出題範囲は漠然としていますので、過去問をチェックしておく程度で十分でしょう。

覚えておきたい宅建業法等の改正条文

ここ数年、宅建業法等の改正が相次いでおり、改正事項は必ずと言っていいほど試験に出題されているので注意が必要です。主な改正事項は以下のとおりです。

1)重要事項として水害ハザードマップにおける物件の所在地の説明を追加

昨今の大規模水災害の頻発を受け、重要事項の説明において、水防法の規定による水害ハザードマップを提示し、ハザードマップにおける取引対象物件の所在地について説明することが義務付けられた(令和2年8月28日施行。令和3年10月・12月、令和4年出題)。

2)デジタル社会形成整備法による宅建業法の改正

デジタル社会形成整備法(正式名称は「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」)が令和3年5月19日に公布され、重要事項説明書および37条書面について、宅地建物取引士の「記名押印」ではなく、「記名」で足りることとされた(35条5項、37条3項。令和4年5月18日施行)。また、媒介契約書、重要事項説明書および37条書面について、書面を交付しなければならないとしていたところ、相手方等の承諾を得れば、電磁的方法により提供することができるとされた(34条の2第11項、35条8項・9項、37条4項・5項)。この場合、宅建業者は、書面を交付したものとみなされる。

3)宅建業の免許申請、届出等の都道府県経由事務の廃止

「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」が令和3年5月26日に公布され、宅建業の免許申請、変更・廃業・案内所の届出等にかかる都道府県経由事務が廃止されることとなった(78条の3。公布日から3年以内に施行予定)。

4)住宅瑕疵担保履行法の届出義務にかかる基準日が年2回から年1回に

令和3年9月30日、「住宅の質の向上及び円滑な取引環境の整備のための長期優良住宅の普及の促進に関する法律等の一部を改正する法律」が一部施行されたことに伴い、住宅瑕疵担保履行法についても改正され、新築住宅を引き渡した事業者に課される資力確保措置の状況についての基準日届出が、年2回(毎年3月31日と9月30日)から年1回(毎年3月31日)に変更された(3条1項)。

5)「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」の公表

本ガイドラインは、不動産取引にあたって、取引の対象不動産において過去に生じた自殺や殺人事件等について、宅建業者による告知に関する適切な判断基準がなく、取引現場の判断が難しいとの指摘があることから、宅建業者が負うべき義務の解釈について国土交通省がとりまとめ、令和3年10月8日に公表したものである。ガイドラインの主な内容は、以下のとおり。

・宅建業者が媒介を行う場合、売主・貸主に対し、過去に生じた人の死について、告知書等に記載を求めることで調査義務を果たしたものとされる。

・取引の対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)については、原則として告げなくてもよい。

・事案の発生からおおむね3年が経過した後は、原則として告げなくてもよい。

・事案の経過期間や死因にかかわらず、買主・借主から事案の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等は告げる必要がある。

受験にあたっての注意事項

1)事前準備はしっかり

試験は午後1時から始まります。その5分か10分前に注意事項の伝達があり、問題用紙の枚数確認等を行うことになっています。

開始時間ぎりぎりになって試験会場に飛び込んでくる受験者を見受けますが、これでは注意事項を聞くこともできませんし、落ち着いて試験に神経を集中させることができません。せめて、事前に会場までの経路と所要時間を確認するぐらいの配慮と、遅くとも1時間前には会場に着き、試験開始の15分前には指定された席について心の準備をしておきたいものです。

また、受験票や筆記用具など、忘れ物をしないよう事前に確認しておくことは言うまでもありません。

2)正解肢の配置に法則はあるか

正解肢の番号にかたよりの出ないよう乱数表を使用しているのではないかと思われます。要するに、正解肢の配置について、一定の法則はないということです。

3)正解の確率を上げるために

明らかに正解でないものを除く

試験問題を読んで、全部の選択肢を正確に理解できるということはそうあるものではありません。まず、問題文を読んでみて、正解肢ではないと認められるものから消去していくことです。残りの選択肢の中に正解がある場合、最後はカンに頼るしかありませんが、それでも明らかに正解でないものを除くことによって選択肢が少なくなり、正解の確率が高くなるのは事実です。

4)解答欄を間違えないこと

試験の緊張の中で、解答欄を間違えて記入してしまうこともないとはいえません。答えは合っていても、解答欄に別の問題の解答を記入してしまい、点数をもらえないようなケースです。せっかく勉強をしたのに、このようなつまらないミスで不合格となることのないよう、くれぐれも注意をしてください。なお、宅建試験の場合は、試験問題を持ち帰ることができますから、最後に、解答用紙に記入した解答を問題用紙に転記しておけば、インターネットなどの正解速報でいちはやく合否を判断することができます。

5)集中力の持続を

受験勉強の際に注意をしたいのは、集中力を持続し、限られた時間を有効に活用するためにも、ただだらだらと勉強するのではなく、日頃から集中して勉強する習慣をつけておくようにすることです。そして、試験前夜はゆっくり休むようにしたいものです。最重要科目(宅建業法)を完全にマスターしておき、最後の部分で逆に一息つけるぐらいの余裕をもってほしいものです。

宅地建物取引士って何をする人

宅地建物取引士は、不動産取引に関する法律問題のアドバイザーです。

一般の人にとって、不動産の購入は一生に1度か2度であることが多いもの。しかも、一生をかけて支払うような大金が動きます。したがって、慎重にも慎重を重ねて取引しなくてはなりません。しかし、いかんせん、一般の人には、不動産の取引についての知識も経験もないのが通常です。このような人に法律的なアドバイスをすることが宅地建物取引士の仕事です。

宅地建物取引士がいい加減なアドバイスをしてしまうと、一生気に入らない家に住むことにもなりかねません。大げさに言えば、人の一生を預かる仕事といえます。このように、宅地建物取引士の役割はとても重要なのです。

宅建士試験って難しい

過去10年間の宅建士試験の合格率は以下のとおりです。100人受験して15〜17人程度しか合格できない、難しい試験といえます。

受験情報

(1)式験概要

〔受験資格〕年齢、性別、学歴等に関係なく、誰でも受験することができる

〔願書配布〕7月上旬(予定)

〔願書受付〕郵送による申込み.配布日から7月下旬まで(予定)

      インターネットによる申込み:配布日から7月中旬まで

〔受験手数料〕8,200円(予定)

〔試験日〕10月第3日曜日午後1時~3時(予定)

〔合格発表〕い月下旬~]2月上旬(予定)

〔問い合わせ先〕

(ー財)不動産適正取引推進機構試験部〒105-0001東京都港区虎ノ門3-8-21第33森ビル3階

出題科目

権利関係、宅建業法、法令上の制限、税・価格の評定、5問免除対象科目の5科目から、4肢択一形式で50問出題されます。

各科目の出題数は下記のとおりです。

1)権利関係(民法・借地借家法・建物区分所有法・不動産登記法)ー14問

2)宅建業法(宅建業法・住宅瑕疵担保履行法)20問

3)法令上の制限(都市計画法・建築基準法・国土利用計画法・農地法・土地区画整理法・宅地造成等規制法・その他の法令)ー8問

4)税・価格の評定(地方税・所得税・その他の国税)ー2問、(不動産鑑定評価基準・地価公示法)ー1問

5)5問免除対象科目(独立行政法人住宅金融支援機構法)ー1問(不当景品類及び不当表示防止法)ー1問(統計・不動産の需給)ー1問(土地)ー1問(建物)ー1問