新型コロナウイルス感染症に対する治療薬の開発状況(令和4年8月)

今後の新型コロナウイルス感染症に対する治療薬の開発について、厚生労働省では、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の研究費や厚生労働科学研究費等の各種研究費制度を活用し、治療薬等の研究を順次拡大しています。
また、その他の治療薬としても、既存の治療薬からいくつかの候補薬が出てきており、観察研究や臨床研究、治験が進められています。

目次

承認済の新型コロナウイルス治療薬(令和4年7月28日現在)

レムデシビル(ベクルリー点滴静注用)

製造販売業者:ギリアド・サイエンシズ
分類:抗ウイルス薬(RNAポリメラーゼ阻害薬)
開発対象:軽症~重症
備考:エボラ出血熱の治療薬として開発されていた。

デキサメタゾン(デカドロン錠等)

製造販売業者:日医工 等
分類:抗炎症薬(ステロイド薬)
開発対象:重症感染症
備考:重症感染症の治療薬として従来から承認されているステロイド薬

バリシチニブ(オルミエント錠)

製造販売業者:日本イーライリリー
分類:抗炎症薬
開発対象:中等症Ⅱ~重症
備考:関節リウマチ等の薬として承認されていたヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬

カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ注射液セット)

製造販売業者:中外製薬
分類:中和抗体薬
開発対象:軽症~中等症Ⅰ(重症化リスク因子あり)、発症抑制曝露後の免疫抑制患者
備考:2種類の中和抗体を組み合わせることにより変異株にも効果を持つことが期待されている。

ノトロビマブ(ゼビュディ点滴静注液)

製造販売業者:GSK
分類:中和抗体薬
開発対象:軽症~中等症Ⅰ(重症化リスク因子あり)
備考:ウイルスの変異が起きにくい領域に結合することにより変異株にも効果を持つことが期待されている

ラモルヌピラビル(ゲブリオカプセル)

製造販売業者:MSD
分類:抗ウイルス薬(RNAポリメラーゼ阻害薬)
開発対象:軽症~中等症Ⅰ(重症化リスク因子あり)
備考:特例承認、厚生労働省が買い上げ、配分対象医療機関に無償譲渡している。

トシリズマブ(アクテムラ点滴静注)

製造販売業者:中外製薬
分類:抗炎症薬
開発対象:中等症Ⅱ~重症
備考:関節リウマチの治療薬として国内で承認を取得している

ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッドパック)

製造販売業者:ファイザー
分類:抗ウイルス薬(プロテアーゼ阻害薬)
開発対象:軽症~中等症Ⅰ(重症化リスク因子あり)
備考:特例承認、併用禁忌の薬剤が多数あり、取扱いに留意が必要。厚生労働省が買い上げ、配分対象医療機関に無償譲渡している。

現在開発中の主な新型コロナウイルス治療薬(令和4年7月28日現在)

ファビビラビル(アビガン錠)

開発企業:富士フィルム富山化学
分類:抗ウイルス薬(RNAポリメラーゼ阻害薬)
開発対象:軽症~中等症Ⅰ(第Ⅲ相)
備考:新型又は再興型インフルエンザを対象として国内で承認をうけている。

ファビピラビル(アビガン)の作用
 それではファビピラビルはどのように効くのでしょうか。ファビピラビルは、ウイルス由来の「RNAポリメラーゼ」の働きを邪魔(阻害)する効果があります。ファビピラビルは元々、インフルエンザウイルス感染症の治療薬として開発されました。ファビピラビルの構造は、DNAやRNAを構成する核酸アナログ(類似体)として、細胞内でリボース(糖)やリン酸基と結合することで、酵素が正常な核酸と間違えてファビピラビルを取り込み、複製や転写の酵素反応が阻害されると考えられています。今回問題となっている新型コロナウイルスも、インフルエンザウイルスと同様にRNA型のウイルスであり、同様にRNAポリメラーゼを産生します。そのため、ウイルスのRNAポリメラーゼの働きを阻害するファビピラビルが、新型コロナウイルスの細胞内での増殖を抑える薬として期待されているのです。インフルエンザウイルスとコロナウイルスのRNAポリメラーゼは、詳細な構造は異なりますが、基本となる酵素作用が類似しているため、阻害効果を現す可能性が十分にあります。

ファビピラビル使用上の注意
 ファビピラビルは、サル等を対象とした動物実験の結果、妊娠した動物に投与すると胎児に奇形を生じること(催奇形性)が報告されています。そのため、妊婦の方には使用できません。また、男性の精液に薬が移行する事も分かっていますので、使用後7日間は避妊する必要があります。

エンシトレルビル(ゾコーバ錠)

開発企業:塩野義製薬
分類:抗ウイルス薬(プロテアーゼ阻害薬)
開発対象:無症候、軽症~中等症Ⅰ(第Ⅱ/Ⅲ相)
備考:現在、無症候及び軽症から中等症までの患者を対象とした国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験を実施中の経口剤

厚生労働省は2022年7月20日、薬事・食品衛生審議会薬事分科会と医薬品第二部会を合同開催した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象に塩野義製薬が承認申請中の経口抗ウイルス薬「ゾコーバ錠」(エンシトレルビル)について、緊急承認の可否などを審議した。審議の結果、「提出されたデータからは有効性を推定できない」と判断され、継続審議となった。2022年11月に予定されている国際共同第2/3相試験の第3相部分の結果が明らかになった後、改めて承認の可否が審議される見込みだ。

イベルメクチン(ストロメクトール)

開発企業:興和
分類:抗ウイルス薬
開発対象:軽症~中等症Ⅰ(第Ⅲ相)
備考:寄生虫薬として国内で承認を受けている経口剤

適応外使用
COVID-19に対してイベルメクチンを正式に承認した国はないが、いくつかの国では有効性のエビデンスが不確実にもかかわらず、誤った情報、死亡数の増加に対する絶望感、初期のワクチン不足、すでに闇市場や動物用医薬品の不適切な剤形で薬が使用されていたこと等により、医師の管理下における適応外使用を許可していた。一時的に公式の許可を与えた国には、チェコ共和国(後に撤回)、スロバキア、フィリピン(後に撤回)、インド(後に撤回)などがある。

ペルー(後に撤回)、メキシコ(後に撤回)など、いくつかのラテンアメリカ政府の保健機関は、査読前論文と事例証拠に基づいて、COVID-19の治療薬としてイベルメクチンを推奨した。根拠とされた研究は元データの捏造のため撤回されており、これらの推奨事項は後に汎米保健機構により非難された。2022年3月時点でラテンアメリカにおけるCOVID-19による死亡者は極めて多く、世界の死亡者の約28%を占める。その要因には、不確かな情報の大量拡散、イベルメクチン等の有効性が証明されていない薬剤の使用により、誤った安心感を抱き、必要な感染対策をおろそかにしたことがあげられている[142][143]。

南アフリカでは、「South Africa Has A Right To Ivermectin」と呼ばれる反ワクチングループが南アフリカ健康製品規制当局(SAHPRA)に対して訴訟を起こし、その結果、2021年1月にCOVID-19における例外的使用(コンパッショネート使用)が認められた。使用には医師らの厳重な管理と報告を条件としている。SAHPRAはイベルメクチンを治療薬として使うには「科学的根拠が乏しい」との認識を示し、フェイクニュースや誤報に対する警告を繰り返している。2022年5月、SAHPRAは「イベルメクチンの新型コロナへの治療的役割を裏付ける信頼できる証拠がないこと」を理由に、新型コロナへの例外的使用を終了した。

COVID-19への使用における安全性
イベルメクチンは寄生虫薬として、数十年にわたり比較的安全に使われてきたが、病態が異なるCOVID-19への使用が安全かは分からない。COVID-19に対する安全性や有効性は未確認であり、用量・用法は定まっていないため、適応外で処方する医師は、薬の潜在的なリスクと有効性の証拠がないことについて患者からインフォームドコンセントを得ることが求められる。臨床試験や適応外処方では寄生虫薬として承認された用量よりも多く使用される事が多いため、神経系の障害、精神障害などの有害事象も出現している。適応外使用をした場合や個人輸入で服用した場合、重篤な副作用を起こしても医薬品副作用被害救済制度は適用されない。

チキサゲビマブ/シルカビマブ

開発企業:アストラゼネカ
分類:中和抗体薬
開発対象:発症抑制、軽症~中等症Ⅰ(第Ⅲ相)
備考:2成分の長期作用型抗体からなる筋注製剤

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